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平成十七年十月十九日に厚生労働省が発表した「医療制度構造改革試案」においても、医療費適正化の政策目標として、平成二十七年度までに平均在院日数を「全国平均(三十六日)と最短の長野県(二十七日‥計画策定時に固定)との差を半分に縮小する」とし、それを実現するための「具体的な取組レベルでの目標」として「在宅等での看取り率、地域連携クリティカルパス実施率、病床転換数」をあげている。
さらに、「病床転換を進めるため、医療保険財源を活用した支援措置を講ずる」とも述べている。
しかし、病床転換数が「具体的な取組レベルでの目標」の一番目ではなく三番目に列挙されていることに注目してほしい。
この事実からも明らかなように、あくまで結果として療養病床も削減されるだろうと考えていたのであり、決してその数値目標を前面に出すところまでのものではなかったのである。
役所の文書というものは、「てにをは」から文言の並べ方までいろいろ気を配りながら作成している。
こういうところからも、当時の厚生労働省のスタンスを読み取ることができる。
すなわち、この時点で厚生労働省は、平成二十四年度までに療養病床を一五万床に削減するなどという具体的な数字まで明確に考えていたわけではなかったのだ。
実際、平成十七年十二月一日にまとめられた政府・与党医療改革協議会の「医療制度改革大綱」にも、それまでの厚生労働省の資料にも、そのような具体的方針は出てこない。
つまりこの段階では、平均在院日数短縮による医療費適正化効果と、療養病床の削減とは結びついていなかった。
先に述べたような抽象的な方策では病床削減ほど目に見える効果が期待できるか不確かではあったものの、とにかく平均在院日数を口]本で最短の長野県並みに短縮するという目標を定め、それに基づく財政試算を行っていたのである。
「医療制度改革大綱」を見ると、「平均在院日数の短縮に関する政策目標を定める」とは書いてあっても、それ以上のことは何一つ書いていない。
それは「平均在院日数の短縮に関する政策目標」は厚生労働省と都道府県が「医療費適正化計画」のなかで規定するものであり、法律には具体的な数億は示さないからだ。
しかし、法律事項である介護療養病床の平成二十三年度末での廃止にひと言もふれていないのはおかしい。
なぜなら、通常の政策決定プロセスでは、このような重要政策は、「大綱」をまとめるまでの過程で徹底した議論が行われ、合意されればその骨格は「大綱」に明記され、あとはそれを法案化するだけだからである。
毎年大きく報道される年末恒例の税制改正のプロセスなどを見れば、そのことは理解できるだろう。
にもかかわらず、「大綱」で介護療養病床の廃止についてひと言もふれていないということは、その時点では少なくともそのような方針はまったく決められていなかったことを意味する。
それが平成十八年二月に国会に提出された法案に突然明記され、それに合わせて療養病床を全体で一五万床に削減するというビジョンを提示したということは、そのごく短期間のうちに意思決定が行われたということなのである。
このように政府の公式文書をたどっていくだけでも、いかに療養病床再編という重要政策が突然に決まったかが明らかになる。
そして、「大綱」がまとまっていたにもかかわらず、国会への法案提出直前になって突如として療養病床再編の方針を提示したために、自民党の事前審査でも猛反対が出て、大紛糾した。
厚生労働省があらかじめ根まわしをして了解を得た自民党厚生労働部会の幹部を除き、武見敬三参議院議員(当時)のようないわゆる「厚生労働族議員」から飯島夕雁衆議院議員のような一年生議員に至るまで、大多数の国会議員が反対を叫ぶなか、自民党厚生労働部会でも当時の部会長の大村秀章衆議院議員によって「強行採決」が行われ、ぎりぎり法案提出にこぎつけたのである。
強行採決は、国会だけではなく自民党のなかでも行われていたのだ。
縦割り行政の弊害それでは、どのような経緯で療養病床の再編が突如として平均在院日数短縮の柱に位置づけられることになり、具体的に二三万床を削減するという方針が示されることになったのか。
その一つの背景として、診療報酬改定があげられる。
医療機関への報酬は、診療内容ごとの保険点数を厚生労働大臣が告示し、行った診療の点数によってお金が支払われる。
先に述べたとおり、平成十八年度の診療報酬改定では療養病床に医療区分を導入することになったが、その際、医療の必要性の低い「医療区分1」の患者に対する点数が採算に合わず、医療機関として経営が成り立たない水準にまで大幅に引き下げられることになった。
これは診療報酬全体の改定率が過去最大のマイナス幅(本体改定率△二三六%、薬価等改定率△一・八%、全体改定率△三・一六%)に決まった(平成十七年十二月十八日)ことを受けて、それを実現するために行われた改定事項だったが、その具体的な内容が平成十七年十一一月に入ってからしだいに明らかになってきたのである。
不採算にまで追い込むということは、必然的に医療機関は「医療区分1」の患者をどんどん退院させるようになるため、そのぶんだけ医療保険適用の療養病床が削減できることを意味する。
そうなると、延べ入院日数は減る。
結果として平均在院日数の短縮という目標も達成されることになる。
そうして、すでに「医療制度改革大綱」がまとめられたあとの法案提出直前であったが、それまでに示していた平均在院日数短縮の目標をより確実に実現するために、医療区分に基づいた療養病床の再編計画が立てられることになったのである。
というのも、診療報酬改定に伴う病床数の減少と平均在院日数短縮の目標の間の整合性を示さなければ、逆に政策の辻複が合わなくなると考えたからだ。
このようにして、そもそも療養病床再編のためにつくられたわけではない医療区分が、結果的にその基準として使われることになった。
しかも、すでに述べたように、療養痛床の再編計画を立てるにあたっては、医療区分の考え方に修正を施している。
診療報酬改定という平均在院日数短縮の確実な手段が登場したことを受けて、それとの整合性をとるために病床削減数の目標を具体的に立てることにしたのだが、いざ試算をしてみると、医療区分に基づく病床削減数だけでは平均在院日数短縮の目標に少し足りなかった。
そのために、今度は平均在院日数短縮の目標に合わせるために医療134区分の考え方をいじったのである。
まさに行きあたりばったりである。
さらに、医療の必要性の低い患者の行き先とされる介護の世界においても、「介護療養型医療施設」と呼ばれる介護保険適用の療養病床を平成二十四年三月末で廃止するという方針が打ち出された。
その論拠は、中医協が実施した「慢性期入院医療実態調査」などで、療養病床に入っている人の状態は医療型も介護型もほとんど変わらず、いずれも医療の必要性の低い人がかなり多い(おおよそ半数)というデータが出てきたから、ということである。
当時、厚生労働審議官を務めており、その後、事務次官になった辻哲夫氏の『日本の医療制度改革がめざすもの』(時事通信社)でも、こうしたデータが出てきたことが「今回の療養病床再編成の大きな一つの決断の要素となりました」と記されている。
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